第8章 現実
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壁を後にしてから約1時間後。
隊列の先頭を走っていたエマは、左手に広がる巨大樹の森に1つの影を捉えた。
「森林内!巨人を発見!!」
辺りに知らせる為、腹の底から声を出す。
巨人との距離は近い、やり過ごす選択肢はない…のだろう。
「森から出すな!前衛は俺と来い、本隊はそのまま前進!」
団長からの指示を受け、エマは自身の班員へ目配せした。
彼らが頷いたのを確認し、再び声を上げる。
「いくよ!!」
エマは手綱を勢いよく引くと、進行方向を大きく左へ変えた。
今にも森から出てきそうな巨人に対抗するべく、トリガーに手をかけアンカーを放った時だった。
再び視界の端に捉えた光景に、顔が歪む。
まるで自身と入れ違うように森から顔を出したのは、先に発見した物より小柄な巨体。そう、巨人は2体居たのだ。
―もっと早く発見できていれば
エマは宙を舞いながら舌を鳴らした。
「エマ!迷うな!!」
地上から飛んできたのはエルヴィンの声。
その声を聞きながら、両腕を交差しトリガーに刃をセットする。
「分かってる、ってば!」
一旦木の幹に足を着いたエマは、刃を抜くと巨人の顔を目がけ幹を蹴った。
こちらへ伸ばされる巨人の手を、身体をひるがえしてかわすと、目標の眼球目掛けて刃を突き刺した。
筋肉を削ぐのとはまた違う、ぞわぞわとした生々しい感触が両手から全身をはしる。最初は不快に感じたこの感触も、必然的に上がる巨人の耳触りな叫び声も、とうに慣れてしまった。
巨人の鼻先を蹴り飛ばしそこから離脱すると、手近な幹に着地する頃にはエマの班員が、その足首とうなじを削ぎ落した後だった。