第7章 変化
帰路を急ぐ道すがら、エマにはどうしても気になる事があった。
「…ってかさ」
ちらっと自身とリヴァイの一歩後ろを歩く、ミケに視線をやった。そう…彼はランプを持っていないのだ。
リヴァイの手中にある灯りは低く、ミケの首元までしか照らされていない。首なしの屈強な大男。その姿には恐怖しか感じない。
「なんでミケはランプ持って来なかったの?怖いんだけど」
その言葉にリヴァイも後方を確認して…少しだけ目を見開いた。
今、リヴァイも絶対怖いと思った。間違いない。
「俺には必要ない」
後方の大男から『スンスン』と聞きなれた音が聞こえた。
一体、彼の鼻はどこまで便利なのか。
「……イヌみたい」
ボソッと出た言葉。しかし、それに反応したのは言われた本人ではなく、真横に立つ小柄な男。
隣からのあからさまな視線に、そちらを向けば不機嫌そうなリヴァイの顔。
しまった。先程、彼には『ネコみたい』だと言ったばかりだ。
「あー。リヴァイはもうミケに匂い嗅がれた?あれ本当に止めて欲しいよね!」
「お前が言っているのは、今行われているコレの事か?」
リヴァイが指差しした先には、彼の頭上で鼻を動かすミケの姿が、ぼんやりと浮かび上がっている。
「うん。それだね」
もしかして先程の視線と表情は、イヌ・ネコうんぬんではなく、ミケの行為に対する物だったのだろうか?
どちらにしても、リヴァイは掴みずらい男。
細かい事を気にしなさそうでもあるし、気にしそうでもある。まだまだ分からない事ばかり。
「おい!こいついつまで嗅いでやがる。やめさせろ」
「んー?もうすぐ終わるから大丈夫だよ」
止めろ。と言ってどうなる事でもない。これはミケにとって、必要な儀式なのだ。