第6章 接触
「そんなに怒らないで」と言う彼女は、リヴァイをなだめるように手を前に出し、彼を制した。
「道具は私が用意するから、手ぶらで来てね。また後で」
そう言い残し、エマは足早に去ってゆく。帰路に着く兵士に紛れながら、その姿はあっという間に小さくなった。
「はぁ…」
リヴァイにしては少々大きなため息が、口からこぼれ落ちた。
見通しはついたが、何故か腑に落ちない。
歯切れの悪い心を振り払うように空を見上げれば、数分しか経っていないのに先程のそれとはまた違う表情。
空全体がオレンジ色に染まり、キラキラと輝いている。その中に浮かぶ大小様々な形の雲。それによって創られた白と灰色のコントラストが、また美しかった。
「悪くねぇ」
これは、完全な独り言。
これまで地上に出た事は何回かある。しかし、この様な長期間は初めてだ。それに……空を見上げる余裕も無かった。
地下の採光口から差し込む頼りない光。
きらびやかな王都の街並みを照らす光。
リヴァイが知っていた、そのどちらとも違う。
城壁の彼方へ沈みゆく日を、ただ1人。見つめていた。
6章 END