第1章 プロローグ
エマは右脇を肥え太った男に。
左脇を長身で髭を携えた男に抱えられ、引きずられるように階段を降りてゆく。
前後も小汚い男達で囲まれ、エマの心は不快感で満ちている。
目を隠されなかったのは、所々朽ちている階段が危険だからだろう。
手すりも一応ついてはいるが、今にも折れそうだ。
「ボス、この女どこで殺りますか?」
隣の長身の男が口を開いた。
その言葉にエマは身をすくめる。
しかし、わざわざ殺す為に捕まえるだろうか?
隣の太った男がこちらを見ながらニヤニヤと笑っている。
その顔は酷く醜くい。
「2階の一番左の部屋だ。しっかり繋いでおけ」
「競りまで3日ありますぜ、今回は俺たちにも楽しませてくださいよ」
(競り…楽しむ..あぁ、さっきの『やる』って、犯すって意味か)
いきなり拘束された時は気が動転したが、徐々に冷静さを取り戻してきた。
男達はまだ話しているが、自身にこれから起こるであろう出来事は大体理解できる。
犯されるのも、売り飛ばされるのも真っ平御免だ。
そもそも人を勝手に捕まえて、物扱いとは腹立たしい。
逃げるなら建物に入る前が良いだろう。
しかし、手錠がどうにも厄介だ。
室内までついて行き外されるのを待つか…
エマはどうするべきかと思考を巡らす。
ふと斜め前から視線を感じ、そちらに目を向ける。
すると、地上でぶつかった男の子がこちらの様子を伺っていた。
その表情は蒼ざめ、酷く怯えたような…不安に満ちた表情をしている。
それを見た瞬間。
エマの中で何かが切れた。