第1章 プロローグ
明るく話しかけるが、相変わらず無言で目も合わせてくれない。
しかしエマが荷物を手渡すと、男の子は左側を指差しながら小さく口を開いた。
「あれも…」
彼が指差したのは、エマの左手にある薄暗い階段の先だった。
確かに数段降りた踊り場にボールが転がっている。
「ちょっと待ってて、すぐ取ってくるからね。」
エマは笑顔で男の子の頭をなでると、小走りで階段を下り始めた。
しかし…この薄暗い階段を下った先には何があるのだろうか?
踊り場を境に階段は右手へ曲がっており、先を確認することは出来ない。
(もしかして..地下街?)
そんな考えが頭をよぎった時だ。
「なっ⁉」
踊り場へ片足をついた瞬間。
死角となっていた右側から、男達が飛び出してきた。
複数人で押さえ込まれ、口と両手を縛られる。
突然の、そして一瞬の出来事に思考が全く追い付かない。
「おいチビ。よくやった。」
頭上から聞こえた声を視線で辿ると、
先程の男の子が男達と共にエマを見下ろしていた。
(あぁ、そういうことか)
私は目の前の、小さな子供を使ってハメられたのだ。