第5章 想い
「あーなんか分かる……そうだ!手を貸して?」
そう声をかけると、イザベルは首を傾げながら手を差し出してくれた。エマはその手を取ると、自身の両手を使い彼女の掌を揉みほぐしてゆく。
「訓練以外にも力仕事が多くて大変でしょう?」
「おぉ!ありがとな。すげぇ気持ちいいし、なんか落ち着く」
イザベルはエマの行動に目を丸くしていたが、素直に受け入れてくれた。
「私も新兵時代、先輩にマッサージしてもらってたんだよ」
「そうなんだ!その先輩はエマと同じ隊にいるのか?」
その質問に動かしていた手にグッと力が入った。
脳裏に浮かぶのは可愛いらしい先輩の笑顔。
そして彼女の巨人に立ち向かう勇敢な背中と……程なくして流れた赤い鮮血。
エマにとって、初めての壁外調査での出来事だった。
何も答えないエマにキョトンとするイザベル。
「うん、そうだよ。……兵団での生活はどう?大分慣れてきたかな」
詳しく話す気にもなれず、心の中で申し訳ない。と呟きながら、あからさまに話を逸らした。
イザベルも察してくれたのだろうか、最初は遠慮がちにボソボソと。しかし途中から堰を切ったように、胸の内を話してくれた。