第5章 想い
エマは部屋へ続く階段には向かわず、女子棟の出入り口を開け中庭と建物を繋ぐ階段に腰を下ろした。
部屋へ向かわなかったのは、先程のハンジと同様に皆を起こしてしまっては申し訳ない。
という事と、風にあたれば髪も早く乾くだろう。と考えての事だ。
女子棟と男子棟の中間に位置するこの中庭は、調査兵にとっての憩いの場。
休憩時間に木陰で身体を休めたり、調整日に皆で食事を持ち寄って楽しく食事をとったり。
ここで生活する者にとっては、楽しい思い出の詰まった場所だ。
「エマ?」
ふいに背後から声をかけられ振り返ると、声の主がそこに立っていた。
まだ朝早いというのに彼女は兵服を着用し、準備万端。という出で立ちだ。
「おはようイザベル、なんか久しぶりだね」
彼女とは王都以来、話す機会は1度も無かった。
手招きしてイザベルを隣に座らせる。
「こんな朝早くにどうしたの?」
「今日は朝食前に厩舎の当番があるんだ。まだ少し早いけど、目が覚めちまって……」
至近距離で彼女の顔を覗けば、随分と疲れた顔をしている。
その表情を見て、自身の新兵時代が思い起こされた。エマにも体は疲れているのに、目が冴えてしまう経験があった。