第3章 報告
ナイルは「そりゃ、お前ー」と何か言いかけ、言葉を詰まらせた。しばし沈黙が続く。
「お前だからだ」
ナイルの言葉に「は?」と聞き返す。意味が分からない。
「お前が可愛いからだ!だから俺は嬉しい!!」
ナイルは勢いよく言い切ると、エマの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「ちょと!なんでか知らないけど、今逃げたでしょ。私には分かるんだから!」
何故話を逸らしたのか分からないが、そうされると余計に知りたくなるものだ。
エマはナイルへと詰め寄る。怪訝な顔付きで彼を見上げれば、ナイルは両手を大きく広げ、ニヤリと笑った。
「俺は逃げてねぇ。俺の真意は撫でただけじゃ伝わらないか?なんなら抱きしめてやってもいいぞ」
ナイルの言葉にエマは動きを止めた。
悔しそうに顔を歪ませ、目の前の人物を睨みつける。
「もういい!準備してくる」
エマは出口へ向かい、のしのしと足を進めた。しかしドアの前で立ち止まると、身を返し再びナイルとヴァルツへ視線を向ける。
「…また後でね」
顔を赤らめ、恥ずかしそうに言い捨てると、エマは少し乱暴に扉を閉めた。
静かな会議室で、ナイルがワナワナと震えだす。
「ヴァルツ見たか?エマよ、もしやこれが噂のツンデレってやつなのか。初めて会った時はこんな日が来るなんて、想像もしなかった……」
「お気持ちは分かりますが、我々も準備に取り掛からないと遅れてしまいます。行きますよ!」
集合時間までにやっておくべき事は沢山ある。ヴァルツは自身の上官をズルズルと引きずり、部屋を後にした。
3章 END