第3章 報告
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緊張感の走る会議室に、ナイルの声が凛と響く。
部屋の大半を占めるユニコーンに混ざり、一人異なる紋章を身につけるエマにとって、この会議は意想外な物だった。
それはナイルの変わり様が凄い。という事ではなく……
この部屋に居る憲兵は皆、使命感に満ちていたからだ。普段街で目にする憲兵とは、その顔付きがまるで違う。
「……という訳だ。夕刻には調査兵団も地下へ入る。互いの任務に支障が無いよう、尽力するように。以上。」
ナイルの言葉で皆一斉に席を立ち、出口へと流れて行く。その様子を横目で見ると、エマは卓上の資料へ再び視線を落とした。目に写るのは会議の資料。もとい、地下街の地図だ。
「エマさん。どうしました?」
不意に声をかけられ視線を移せば、ナイルの側近、ヴァルツが立っていた。
ナイル程ではないが、彼とも親しくさせてもらっている。
「不安に思う事があれば、何でも相談して下さい」
「ありがとう。私には土地勘がないから、頭に入れておかないとって思って」
ヴァルツの気遣いに笑顔で返答するも、心の中は罪悪感が大半を占めていた。
発した言葉は勿論真実だが、地図を片手に思うのは……今朝まで過ごした家の事だった。