第3章 報告
「エルヴィンだけじゃねぇ、お前は俺にとっても可愛い存在だよ。いつも言ってるだろ」
『可愛い』といやらしさも無く、さらりと言ってのけるナイル。流石、既婚者は違う。
「エルヴィンは可愛いとか思ってないでしょ。今や完全におもちゃ扱いだし」
エマの脳裏に先程の出来事が蘇る。
「なんだそりゃ。それより、後で本部に来て欲しいんだ。同じ様な事件が何件かあってな。摘発に向けて詰めていた所だ」
そう言えば、エルヴィンもその様な事を言っていた。ちなみに、自力で逃げてきた事案は今回が初めてらしい。
「しかし、お前よく逃げてきたな。一度捕まったらなかなか難しいぞ?それに地下は寒かっただろう。一晩どうやって凌いだ?」
「あぁ、詳しくはまた本部で話すけど。親切な人が拾ってくれて、家に泊めてくれたの」
そう話すとナイルは驚きの表情を浮かべた。
余程、地下では珍しいケースらしい。
「とにかく、支度を済ませたらすぐ本部に行くから。これ頂くね!」
立ち話もなんだと、エマは早々に話を切り、自身の部屋へ向かう。
すると背後から上擦った声でナイルに呼び止められた。
「っおい!エマ。そのシャツ男の物だな?お前まさか、泊めた見返りにいやらしい事を強要されたり……」
「してないから!あんた達一体何なの。この変態!!」
エマの罵声に辺りは静まり返る。
……完全にやってしまった
先程からそう言われると、良い思い出を傷つけられた気分になってしまうのだ。勿論、皆が心配して言ってくれている事は理解しているのだが。
ナイルは可愛がっているエマに変態呼ばわりされ、ショックを隠しきれない。
「ごめっ、ごめんねナイル。さっきエルヴィンとミケにも同じ事を……」
焦って弁解するが、もう遅い。
肩を落とすナイルと、それを必死に宥めるエマの姿は多くの兵士に目撃されることとなった。