第3章 報告
「しかし、よく無事に帰ってきてくれたね」
エルヴィンの顔つきは先程とは打って変わり穏やかだ。それを見てエマもほっと胸を撫で下ろす。
「ありがとう。エルヴィンのその顔見ると安心する」
エマは安堵した表情で正直に気持ちを伝えた。
彼の下に就いてからずっとそうだ。この柔らかな笑顔に何度も救われた。
「ところでエマ……男に助けられ一晩泊めてもらったと言っていたな?」
「そうだよ、なんで?」
突然の質問にエマは訳が分からない、といった表情をみせる。地下での行動ならば、先程全て報告したはずだ。
エルヴィンは椅子から立ち上がるとエマの前に立ち、彼女のシャツを両手でつまんだ。
つままれた鎖骨の辺りはシャツのゆとりの分だけ上に上がり、エマの首は完全にシャツに埋もれてしまう。
「あの、エルヴィン?」
彼の謎の行動に全くついて行けない。エマは怪訝そうに声をあげる。
「エマ。よもやその男に、体を許したりはしていないだろうな」
ずいっとエルヴィンに顔を寄せられ、そう問いかけられた。エマはその顔を見上げたまま固まる。
『あっけにとられる』とはこの事だろう。
「はぁ!?そんなことする訳ないでしょ!」
エマはエルヴィンの手を払い除け身を引いた。
なんてことを聞くのだ、この上官は。
「一晩外泊した上に、男性のシャツを着て帰ってくるなんて意味深じゃないか。気にもなるだろう」
確かに今着用しているのはリヴァイの物だ。
一晩外泊。男性物のシャツ。と続けば、いかがわしい香りがしなくもない……かもしれない。