第10章 出発
「お前には感謝しかしていない」
「リヴァイ……」
リヴァイはエマの頭を撫でた後、そのまま指先を彼女の頬に滑らせた。
「ここ、どうした?」
「え?……あぁ、それは昔訓練の時に……」
彼の感触を感じる場所に、古い傷痕があるのを思い出した。
ゆっくりと、リヴァイの指先が頬をなでる。
至近距離で見つめられ、不覚にもエマの胸は大きく鳴った。
「傷なんていっぱいあるよ?だから……あんまり見ないで」
なんだか不思議な気分、既に顔は赤いのだろう。
なるべく動揺を悟られまいと、サッと俯いた。
すると、一度離れたリヴァイの手は再びエマを捕らえる。
彼女の前髪をサラサラと撫でれば、左のこめかみ辺りに別の傷跡を見つけた。
切り傷ではなく、皮膚が削れたような跡。
「これは訓練か?壁外か?」
「っそれは……」
リヴァイの空いた手が、エマの腰に回された。
鼓動がより一層早くなる。
額にかかる彼の吐息が……熱くて仕方がない。
「エマ」
心地よい声で、彼は名を呼んだ。
こんなのズルい。
いつも『お前』と呼ぶくせに。
多分、いや間違いなく……
初めて名前を呼んでくれた。