第10章 出発
「リヴァイ、今日は本当にありがとう」
すっかり綺麗になった室内に荷物を運び入れた所で、エマは声を掛けた。
「仕事でも埃まみれの部屋には行きたくねぇからな」
「正直、掃除は得意じゃないんだけど……頑張るから来てよ?報告とか色々あるだろうし」
せめて現状維持ぐらいは自分でしていきたいものだ。
「じゃあ、俺は戻るぞ」
「あっ!ちょっと待って」
立ち去ろうとするリヴァイを慌てて引き留めた。
部屋の隅に置いていたカバンを1つ差し出せば、彼は驚いたように目を見開く。
「イザベルの荷物だよ。受け取ってもらっても良いかな?」
亡くなった兵士の遺品は、基本的に家族の元へ返される。彼女の家族は……リヴァイだ。
「あぁ、勿論だ」
そう話す彼の表情は、とても穏やかで。
思わず見惚れてしまう程だった。
「優しい顔をするんだね」
自分のした事に、後悔はない。
だが結果として、彼の大切な人を奪うきっかけを作ったのは……
「そんな顔するな」
エマの考えを遮るように、リヴァイの声が部屋に響いた。
「そんな……辛そうな顔しなくていい」
そう言うと、彼は私の頭を撫でた。