第10章 出発
掃除用具一式を手に部屋へ戻ると、ミケの姿は既に無かった。すっかり空になった机の引き出しが、退出が完了した事を告げている。
「おい、このドアはなんだ?」
「そっちは私室だよ」
副官の部屋はそこまで広くは無いものの、執務室と私室が隣り合わせになっている構造は分隊長のそれと一緒だ。
「開けても良いか?」との問いに返事をすれば、リヴァイはドアノブを回しズカズカとその部屋へと消えていく。
彼の行動が気になりヒョイっと部屋を覗き込めば、彼は部屋を一周ゆっくりと回ると、窓を勢いよく開けた。
「おい、まずはコレを干すぞ」
彼が指差したのは、ベッドの上に敷かれたマット。
「え!?そこまでしなくても……」
「何言ってんだ。もうすぐ昼だが今からでも遅くねぇ、それにここに置いといたら埃が付くだろう?」
話ながらも、部屋の隅に掃除用具を広げる手は止まる事はない。
「干したら、まず照明。そして棚の上から手を付ける、モタモタすんな」
「……はい。分かりました」
正直、彼の行動が少し『煩わしいな』と思った。
だが彼に促されるままマットレスに手を掛けた時、エマの気は変わる。
反対側の隅を持つリヴァイの顔が、とても面白かったから。
「すっごい険しい顔してるよ、リヴァイ!」
「当たり前だろう。こんな部屋でよく寝れたもんだ」
ミケの酷い言われようにゲラゲラと笑った。
掃除もリヴァイとやれば、楽しい……かもしれない。