第10章 出発
「勿論です。私はここを離れるつもりはありません」
エマのはっきりと力強い声に、エルヴィンも顔をほころばせる。
「それは良かった。実は、頼みがあるんだ」
「頼み?」
「ミケに分隊長を任せる事になった。それにあたってエマ、君に俺の副官をやってもらいたい」
この申し出はエマにとって意外なものであり、とても驚いた。フラゴンが亡くなった今、ミケが分隊長に昇格する事はなんとなく分かっていたが……まさか、自分がミケの抜けた位置に着こうとは。
「それは本気……よね?」
「冗談に聞こえたかい?」
「いや、聞こえないけど……副官にならなくても、今まで通り傍で何でもするよ?」
「周りの声が怖いか?」
「……そういう訳じゃない」
きっと、エルヴィンには私の考えなんて筒抜けなんだろう。批判が怖い訳じゃない。でも、自分は役職に着くにはあまりにも適さない。
「団長には既に許可を得ている。それに、役付きになるというのは悪い事ばかりではないよ」
蒼い瞳が、エマを捕らえる。