第10章 出発
壁外調査から2日後、エマはエルヴィンの執務室へ向かっていた。長い廊下を抜け、慣れた手付きで扉をノックする。
「エマです」
間髪入れず聞こえた入室許可の声に、ドアノブをひねる。
「早かったな、急に呼び出して悪かった」
「とっくに慣れてるよ」
皮肉たっぷりに返事をすると、通されたソファに腰を下ろす。すると、机の上にはどこかで見たお菓子が置かれていた。
「それはナイルから送られてきた物だ」
エルヴィンから手渡された手紙には、ナイルの字で
『壁外調査お疲れ様。お前が欲しい、はやく俺の所に来い』
と綴られている。
「なにこれ。こんな熱烈なラブレターもらったの初めてだわ」
短い文章だが、彼の気持ちはよく伝わってくる。思わず頬がゆるんだ。
「それをお前に直接ではなく、俺に送り付けてくるのがアイツらしいな」
「わざとエルヴィンに見せてるんでしょう?まあ、直接送って来られたら引くけど」
エマはナイルからの手紙を丁寧に畳み直すと、ジャケットの内ポケットにそっとしまった。
その様子を見ていたエルヴィンが、真剣な眼差しで彼女に問う。
「エマ。君はこれからもここで、力を貸してくれるかい?」