第55章 男達の闘い
「ハァ……ハァ……ハァ……。」
大きく肩を揺らしながら藤崎先輩はジッと白井を睨み付けた。
先程、雨が降りだした。
しだいにそれは激しくなってきた。
ザアァァアア―――
呼吸の音を掻き消すような豪雨。
通り雨だろう。
だけど、それは先輩の体力をジワジワと奪っていた。
「わかったか?口でなんと言おうと所詮ガキ、俺に勝つなんざ百年はえーんだよ。」
白井の口がそう動いている。
でも、雨のせいで聞こえない。
そう、全て雨のせい。
負けるのも急に降りだした雨が悪い。
そう言えたならどんなに楽だろうか。
副総長という名の重荷が下ろせたならどれだけいいだろうか。
しかし、彼はそんなことを微塵にも思っていない。
親友の大事にしている彼女を、いや、彼自信が大事にしたい彼女を守りたい。
ただその一心でフラフラの足を立たせていた。
「まぁ、すぐに終わらせてやるけど。」
口をそう動かすとゆっくりと白井が近づいてくる。
ピチャッ―――ピチャッ―――
スニーカーが雨水を弾いている。
コオォォォ―――
先輩が息を吐き出し呼吸を整える。
"息吹(いぶき)"だ。
そして垂れた髪を掻き上げる。
やっと、元に戻れた。
いつもの姿に。
"大事なやつの前で人を殴って情けねえ姿見せんなよ。拳は傷つける為にあるんじゃねぇ、守るためにあるんだ。"
彼は前、上田さんが言っていた事を思い出していた。
"大切なやつの前で殴るな。"
その意味を履き違えていた。
その事に気づいたのはたった今。
―――たぶん、誠也はもうとっくに気づいているだろう。……守るためにある拳……か。
そう思いながら、彼女の方へ目を向けた。
「絶対に守るから……。」
口をそう動かすと拳を強く握った。