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レッテル 1

第54章 団結と侵略




「……きめぇ、寝言は寝て言えよ。……いや、わりぃ。テメェは起きても寝言いってんな。」

「なんやて?」

誠也君の言葉に加藤が反応した。
しかし、

「おどれはいっぺん―――」

と言いかけて加藤の口が止まった。
ただ一点を見つめている

「……なんでアイツが――。」

そう言って加藤が走り出す。

「おい、オッサン。どうしたんだよ?」

「兄貴!?」

突然の行動にあたしたちは驚いた。
加藤の後を追いかける。
が、見失ってしまった。

「アイツ、どこ行ったんだよ。」

病院のロビーで、彼が困ったように頭を掻きながらキョロキョロと周りを見ている。

「兄貴、どうしたんスかね。急に血相変えて……なんか、見たみたいッスけど。」

「なんかあったのかな。」

思わず動揺してしまう。
夜の病院ってだけでも恐いのに、奇行な行動をとられるとますます恐怖が身を侵食していく。

「つか、アイツいねーとどこ行っていいのかわかんねーぞ。それによう――」

彼がチラリと後ろに目を向ける。
あたしもそこを見た。
病院の警備員がジッとこちらを見ている。

「とにかく、うろうろして探すしかねーな。」

「え!?」

「そうッスね。」

誠也君の言葉に建一君は頷いていたが、あたしは頷けなかった。
こんな恐ろしい空間をうろうろするなんてとんでもないことだ。
ましてや、ロビーの先は青黒く見えにくい。
病院で"ゆ"のつくものが出るのはよく聞く話だし。
そう考えるとこの二人は肝がすわっている。

「桜……恐いんか?」

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべながら彼が見ている。

ムカッ―――

なんで人だ。
あたしが恐がっているのを楽しんでるに違いない。

「違う、恐くなんかないよ。」

平然を装った。
嘘。本当は足が竦むほど恐い。
だけど、あの顔見たらなんだかそう言いたくなった。

「ふーん、そっか。」

まだニヤニヤと笑っていたが、そう呟くと歩き出した。
建一君も。

「ま……待ってよ。」

慌てて彼の横につく。

「やっぱ…恐いんじゃねーか。」

黙って彼の手を握ったあたしに、彼はそう言った。
極力彼の顔を見ないようにした。
彼が今、どんな顔をしているかなんて安易に想像できる。

カタ――カタ――カタ――カタ――

ブーツが地面を叩く音が辺りに響いた。




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