第53章 闇からの使者
「…あーッ、笑うな笑うな。俺はお前と付き合うための争いに勝ったんだよッ。」
彼があたしの髪を掻き乱した。
お陰で彼の顔が見えない。
「酷いよ、誠也君。仕返し――。」
と、彼のセットされてない髪に手を伸ばすが、手が届かない。
背伸びをしても届かない。
「……たく、仕方ねーな。ホラッ。」
彼が少しかがんだ。
「えいッ。」
彼の髪を思いっきり掻き乱す。
「くすぐってぇ。」
彼が笑っている。
「どうだ、参ったか。」
彼の前で仁王立ちした。
「ハイハイ、参りました…よッ。」
「あ……。」
普通に立った彼の顔が間近に近づいた。
そっと唇に生暖かいモノが触れる。
微かに香る煙草の香り。
「……俺の前以外でそんな顔すんなよ、……反則だから。」
彼が顔を反らしながら呟いた。
何が起きたのか気付くのに少し時間がかかった。