第53章 闇からの使者
「争い事なんてなければいいのに…。」
先輩達が帰った後、ベランダで彼と星を眺めながらあたしは呟いた。
疲れていたのか、勇人君はもうベッドで寝ている。
「どうして、争うのかな……人って。」
それは、暴走族や極道に限らない。
どこに行っても争いはある。
"争いは良くない"
たとえ、そう言ったとしても彼らには綺麗事にしか聞こえないだろう。
だけど、彼には傷付いて欲しくない。
そう思うのはいけない事だろうか。
「さぁな、……やっぱり自分が大事だからじゃねぇか?」
煙草を吹かしながら彼が答えた。
「え?」
あたしは、彼の方を向いた。
「人間どんな綺麗事言ったって、自分が大事じゃない奴なんていないだろ?自分を守りたいって気持ちが強いからこそ争うんだ。でもさ――」
彼は空を見上げた。
「一歩先を行った奴は、"誰かを守りたい"そう思うからこそ争うんだ。でも争うって言っても、殺り合うだけじゃねーゾ?いろんなのがあんだよ。」
「例えば?」
「………恋とか。」
彼が小さく言った。
頭を掻いている。
「………プッ――。」
思わず笑ってしまった。
彼の口から"恋"なんて言葉が出るとは思わなかったからだ。