第52章 歯車
「組の一大事に、勝手にうろつかれては困るな。」
夜。
宗次郎が加藤達を送り岩中宅についた後。
自室の前で、男が呟いた。
口元に傷があり、目には黒い眼帯を。
顎に髭を蓄え、長い黒髪を結んでいる紫の着物を羽織った男だ。
"強面"
その言葉が良く似合う。
「すいませんでした、花村のおじき。」
宗次郎が頭を下げた。
この男、童次郎の弟分であり、岩中組舎弟頭の"花村 義勇(はなむら よしたけ)"だ。
「何を考えてるかは知らんが、出すぎた真似はしないことだな。」
花村はジロリと宗次郎を見ると、横を通り過ぎて行った。
「………。」
宗次郎はその後ろ姿をジッと見つめた。
昔からだが、花村は宗次郎の事を良く思っていない。
きっと彼が元々岩中組の人間ではないからだ。
宗次郎は充分分かっていた。
けれど、それは花村が組を想っているからこそしていること。
だからしょうがない。
宗次郎は優しく部屋のドアを開けた。