第52章 歯車
「……また、来た…のか、…ヒヨッコが。」
掠れた消え入りそうな声が聞こえてきた。
「なんや、死に損ないがデカイ口叩きやがって、さっさとくたばれ。」
老人の方に目を向ける。
「わしゃ…まだくたばらんわ。あと……二十年は……ゴホッゴホッ――」
苦しそうに老人が咳をした。
「生きてたまるか。あー、来ん方がよかったわ。帰ったら塩まかなアカンな。」
立ち上がって背を向ける。
「二度と……くるな…ヒヨッコ。」
病室を出ようとドアに手をかけると、老人が呟いた。
「うるさいわ。」
そう呟いて部屋を出た。
彼が病室を出ていくらか歩いた時。
入れ違いでやって来た男が、江田が出てきた病室の前にたった。
白い線の入った黒いスーツに、黒い髪。
胸には西條会の金バッチ。
白河がそこにいた。