第52章 歯車
「クソジジイ、まだ生きとるんか?」
同時刻。
県南部に位置するとある町の大きな病院。
そこの個室の病室に江田はいた。
ベッドの上で眠る年老いたシワシワの老人。
呼吸器口元につけ、静かに呼吸をしている。
痩せ細った腕には細い管が刺さっており、そこから栄養を送っている。
「さっさとくたばって、ワシに豪龍会くれや。」
椅子に座って小さく呟いた。
返事はない。
ただ、規則正しいピッピッと言う機械音が聞こえてくるだけ。
「情けないのぉ……クソ親父。」
ジッと老人を見つめた。
睨み付けるように。
―――いっそのこと、呼吸器を止めてやりたい。
いつも、ここに来てはそう彼は思う。
だけど思うだけ。
実際は行動に起こさない。
何がソレを抑制するのかは、分からない。
理由なんてモノはないのかもしれない。
親子だから。
"子が、病魔に侵されている親を助ける。"
世間では当たり前の事だけど、彼の中では当たり前ではない、唯一の良心。
それに、まだ父親に聞かなくてはいけない事がある。
記憶の片隅にある母親の事や妹の事。
"もう一度会いたい。"
何て事は言わないけど、自分を捨てた母親と妹に怨みはある。
ギュッと拳を握った。