第52章 歯車
「善司(ぜんじ)、なぜお前がここにいるんだ。」
また、後ろから声がした。
あたしは振り向く。
「ワシがどこにいようがワシのかってジャ、宗次郎。」
善司と呼ばれた人も後ろを振り向いた。
「そうだな、だが…事次第では俺もただじゃおかない。」
そこには、そう呟やきながら善司を見ている宗次郎さんがいた。
威圧感が凄まじい。
二人の間に不穏な空気が流れている。
「なんジャ、やるんかィ?」
「いや、"手を出したら"の場合だ。」
宗次郎さんはそう言って此方へ歩いてくる。
「へッ、やっぱり岩中の連中は腰抜けジャのぅ。肝が――」
ガシッ―――
ゴキゴキゴキ―――
「いてぇッ!!」
「岩中への侮辱は許さん。」
宗次郎さんは善司の腕を掴むと後ろへ手を捻った。
骨は折れてないが、彼の腕が悲鳴をあげている。
「わかったか、善司。」
彼の後ろから唸るように宗次郎さんが言った。
目付きが今まであたしが見たことのないような鋭くて冷たい目をしている。
「わかったか?」
再び尋ねた。
「わ…わーった、わーった。」
「……ならいい。」
そう呟くと、宗次郎さんが手を放した。