第52章 歯車
「はぁ?ちげーし。つか、今時上半身裸ってすべってんゾ?それともその喉の傷の突っ込みまちか?どっちにしても痛ぇなアンタ。」
誠也君が訝しげに男を見た。
「…なんやと?このクソがきゃあ、誰にそげん口聞いとんのジャ?」
男のシワのはいった額に更にシワが刻まれる。
「テメーだよ、テメェ。…鼻傷男。」
彼は煙草をくわえて火をつけた。
「ガキがちょーしにのりおって…いてこますゾッコラァ!!」
男が誠也君の胸ぐらを掴んだ。
けれど、微動だにもせず、彼は煙草を吹かし続けている。
ふー―――
煙が男の顔にかかる。
「クソがァ―――。」
男の額に青筋が浮き上がる。
ワナワナと握られた拳が震えていた。
しかし、手を出そうとはしない。
「殴らねぇのか?鼻傷。」
ヘラヘラと彼が笑っている。
こういう時の彼はなんだか性格が悪いと思う。
「人のシマで殴ったら、協定違反やで。オッサン。」
すると後ろから声がした。
聞き覚えのある声だ。
後ろを振り向く。
「誰がオッサンじゃッ!!わしゃあ、まだ29やッ!!」
男も叫びながら声のした方を見た。