第51章 溺れた者と再来
「………。」
放課後。
電車を降りたあたしは、彼の横でずっと口を閉じていた。
吉田君の事が気になる。
いや、好きとかじゃなくて"いじめ"の事。
あの日でもう終わったと思ったのにまだ続いていた。
「どうした?」
彼が上から見ている。
あたしは、彼の顔を見ると下唇を噛んだ。
あたしは吉田君に何もしてあげられない。
たとえ、何かをしたとしても、それは"偽善"。
ただのあたしの自己満足だ。
「……何があったか知らねぇけど、くよくよしたってしかたねぇだろ?」
彼の手があたしの頭に触れた。
「お前の笑顔は可愛くて、それでもって俺に元気をくれんだ。だから、お前が笑ってねーと俺もつれぇよ。」
まだ辰川との傷が癒えてない彼の顔が優しく笑った。
笑顔?元気?
前、棗にも似たような事言われたっけ。
"お前の笑顔が好きだ"
て。
笑っていよう。
笑っていると良いことがあるかもしれない。
自然と口元が緩んだ。