第51章 溺れた者と再来
ドンドンドン―――
「おばはん開けんかいッ、ガラス割られたいんか!?」
同時刻。
馬場団地のドアを激しく叩きながら加藤が叫んでいる。
ドアには"金返せ""泥棒"など沢山紙が貼られている。
「留守じゃないんスか?」
隣の建一が額から汗を拭いながら言った。
今日は普段より暑い。
まるで初夏に戻ったようだ。
長袖のため汗が吹き出る。
「いや、ちゃう。」
ガシャンッ―――
「兄貴ッ!?」
ドアの隣の部屋の窓ガラスを、加藤は素手で割った。
物凄い音を立てて硝子が飛び散る。
突然の行動に建一は驚いた。
「ジブンは来るんやないで?」
彼はそう言うと鍵を開け中へ入った。
バリ―――
ガラスの踏む音が聞こえる。
そして、物凄い悪臭が加藤の鼻を貫いた。
―――臭い
その一言じゃ表せない程の腐敗臭。
思わず吐き気を催す。
一緒だ。
暑さも、臭いも。
あの時と。
坂下と見た――