第51章 溺れた者と再来
「俺、松下さんの考えについていけないんスよ。」
加藤達の横を歩く夛田が声を潜めて言った。
「なんつーか、暴君っつう感じッスかね。すぐ手出すし――」
傷テープが貼られた額に手を触れた。
彼は所々怪我をしている。
全て、松下の仕業だ。
「……アイツは自分で自分の首締めとる。」
煙草に火をつけると加藤が呟いた。
「どういうことッスか?」
建一が首を傾げた。
「ジブンで自分の敵を作っとるんヤ。それも気づかへんで力と悪知恵だけで頂点を目指しとる。だが、頂点のへしあがれるんは力や知恵を持っとるヤツとはちゃう。ホンマは――」
煙を肺に吸い込む。。
「仲間や誰かを想う気持ちを持っとるヤツがのしあがれる。」
――だから、ワシは秋本に負けた。
言葉と思いと共に煙を吐き出した。
忘れていた。
誰かを守りたいという気持ちを。
坂下がいなくなってしまったその日から、何処かに置き去りにしてしまっていた。
極道が誰かを守りたいとか言うと、一般人は笑うだろう。
だけど、それは人を強くする。
秋本や、兄貴みたいに。
時期じゃないと言った兄貴の気持ちが、今やっと分かった。
でも遅すぎた。
力に溺れ、地位を失った。
だけどこのままじゃ終われない。
兄貴の後ろで組守るんは松下とちゃう。
―――ワシや。
ザッザッと地面を擦る季節外れの草履と、半ズボンと前を開いた奇抜なデザインの長袖のシャツと、そこから見えるカラフルな刺青。背中には"般若"の刺青を背負っている。
姿はすっかり違えど、彼は昔に戻ったような気持ちになった。
下積み時代に。