第50章 魅惑の仮面
「…つーか、何でアイツ見てたんだ?」
彼の声色が不機嫌になった。
また彼のヤキモチだ。
サクッ―――
少し冷めたアップルパイをフォークで切った。
「なぁ。」
彼の視線を感じる。
パクッ―――
が、答えることなく口に運んだ。
変に答えると、彼の機嫌を損ねる可能性がある。
ここはなにも言わないに限る。
というか、見ていた事に理由なんてないのだ。
ただ見ていただけ。
しいていうなら、彼の雰囲気に魅了されていただけ。
ほんの少し。
恋とかじゃなくて、違う別の何か。
前に会ったことあるような気がしたから。
モグモグ――モグモグ――
やっぱり噂通りここのアップルパイは美味しい。
自然と笑顔になれる味だ。
「おい、聞いてん――」
パクッ―――
彼の口にもアップルパイを入れた。
「………たく。」
と言いつつも彼の口許が緩んでいる。
ほらね。
やっぱり笑顔になれるんだ。
あたしは笑った。