第50章 魅惑の仮面
「すいませーん、これ一つください。」
店員さんに追加のケーキを頼む。
「………マジかよ、お前それで五個目だぞ?やめとけ。」
「甘いものは別腹なの。」
「そういう問題かよ。見てるこっちが気持ち悪くなる。」
誠也君が口を押さえた。
「だって、美味しいんだもん。」
口許を緩めながら彼を見る。
「……はぁ、そうかよ。」
彼も優しく笑った。
ドクンッ―――
胸が高鳴る。
今の彼の表情――ズルい。
そんな顔されたらますます好きになってしまう。
あたしは熱くなった頬を隠すように窓の外を見た。
「あ……。」
思わず声が出た。
―――あの人…朝の……。
隣の店から出てくる男の人をジッと見ていた。
いや、正確には彼から目が話せなかった。
「どうした?」
彼も窓の外を見た
「お待たせしました。」
そして、おかれる香ばしい焼きたてのアップルパイ。
それはこの店の名物。
でも、それさえも目に入らない。
男の人が黒い車へ歩いていく。
その人は、立ち止まりこちらをみると、クスリと笑った。
そして、また歩き出す。
一瞬だけど……目が合った。
「白河 和真……。」
彼が呟いた。