第50章 魅惑の仮面
「お忙しいのにわざわざ来てもらってありがとうございます……白河組長。」
喫煙室のソファーに腰掛けて、宗次郎は隣に座る白河に頭を下げた。
「いや、他の組長みたいに昨日いくはずだったんだが…仕事が立て込んでてね。……悪かった。」
白河はタバコを取り出しくわえると、ジッポーで火をつけた。
カチンッ―――
ジッポーを閉じる音が響く。
「いるか?」
白河が宗次郎に煙草を差し出す。
「頂きます。」
宗次郎はそれを一本受け取った。
そして、くわえて火をつける。
「豪龍会の動きが激しくなっているのには気付いていた。けど、まさか岩中組長が狙われるとは――。」
フーと煙を吐き出す。
「………実は、狙われてるのは親父だけではないんです。」
「何?」
「俺も……狙われてるんです……何者かに。」
うつむきながら宗次郎は小さく答えた。
「なんだと?」
白河が驚いた顔をしている。
「何回か襲撃にあいました。……難は逃れましたが、またいつ狙われるか―――」
宗次郎が口を閉じた。
「………なら、今こういうことを言うべきではないかもしれないな。」
「何がですか?」
「いや、君に岩中組長の代理を頼もうと思ってね。今日はその事できたのもあるんだ。」
ゆらゆらと煙が上がっている。
「……俺が親父の代わりを?」
「あぁ。もし、豪龍会と抗争になったとき、西條会で一番構成員をもつ岩中組が動けなくては困るんだ。そのためには指揮するものがいる。しかし、誰もがなって良い訳じゃない。やはり、知恵と力を持つ君みたいな人が必要なんだよ。」
真剣な顔で白河が宗次郎を見た。
汚れの無い黒い瞳が、目の前のダークブラウンの瞳を捉えている。