第50章 魅惑の仮面
ヴォンヴオォォオオン―――――
ゴオォォォオオ―――
彼のバイクが音を立てて風を切っている。
結局、準備には一時間近くかかった。
"そのままでも可愛い"
そう言われたけど、女として身だしなみは怠れない。
まぁ、彼の機嫌は良くないが、今日のデートは楽しむことにする。
パァンパァァン―――
「道の真ん中走ってんじゃねェッ!!さっさどかんかいッ!!」
と、おもった矢先、後ろからクラクションと共に男の声が聞こえてくる。
振り向けば、見ただけであちら系(筋者)だと分かるような厳つい車が煽っている。
でも、彼もかなりのスピードを出しているし、ここは一車線だから仕方ないと思う。
ジッと見ていると、後部座席に座る男の人が見えた。
線の入った黒いスーツにわずかだが金のバッチが見える。
そして、整えられた黒い髪の毛に鋭い目付き。
本当にわずかな時間だったけど、その男を見た時間が長く感じる。
ああいう人を前に見たことがある。
―――宗次郎さん。
だけど、彼とは違う雰囲気をその男はまとっている。
なんだか嫌な雰囲気……。
……て、人間の第一印象は初めの五秒で決まるっていうけど、ほんの一瞬でこんなに人間観察できるなんでどうかしてる。
まるで"コ○ン"になった気分。
自分自身に笑えた。
「……たく。」
彼は溜め息を吐くと、左脇によけた。
その横を車が通り抜けていく。
横を通った時は、後部座席に座る男は見えなかった。
何故なら、硝子が真っ黒だったから。