第49章 龍の刺青
「テメーのせいだぞ……。」
ゆっくりと目の前の髭野郎を睨み付ける。
また、彼女を怒らせてしまった。
最近、怒らせてばかりだ。
このままいけば―――
「破局だ、破局ぅ。」
堀田が笑っている。
ムカつく。
むちゃくちゃムカつく。
でも、それよりもどうにか彼女の機嫌を治さなければいけない。
そういや、冷蔵庫に彼女の好きなサクランボがあった。
――サクランボ。
よし、それでいこう。
好きなもので機嫌をとるんだ。
冷蔵庫を開けサクランボが入ったパックを取り出した。
それを洗って硝子の器に盛る。
それにコップに注いだオレンジジュース。
完璧だ。
「サクランボは英語で何て言うんだっけ?」
まだ、アイツが笑っている。
疫病神野郎がッ!!
奴を睨み付ける。
つうか、サクランボを英語で?
……駄目だ。
漢字は得意だが、英語はまるっきりわからねぇ。
勉強しとくんだった。
「ブッブゥー、正解はチェリーでーす。」
堀田が顎をしゃくれさせた。
チェリー?
童貞はチェリーボーイ。
サクランボは英語でチェリー?
――ダメじゃねーかッ!!
ガシャン―――
テーブルにお盆を叩きつけた。
ジュースが波打ち溢れる。
火に油だ。
ますます怒らせちまう。
椅子に腰掛け頭を抱える。