第48章 神影
暫くして、事務所の前に一台の車が止まった。
黒い国産高級車。
どの窓にも、一番透明度が低いスモークが張られている。
前から見れば、顔が見えるだろうが、そんなことをすれば男は怪しまれてしまう。
ジッと座って、ホームレスになりきった。
ガチャ―――
ドアが開くと共に男が降りてくる。
黒のスーツにストライプが入っている。
そしてセットされた黒髪。
あれは……。
降りた男がこちらを振り向いた。
ジッと此方を見ている。
そして、ニヤリと笑った。
マズイ、バレたかも知れない。
男は立ち上がると、歩き出した。
その男がいなくなるまで身を潜めるつもりだ。
角を曲がると影に身を隠す。
ドクドクドクドク―――
心臓が激しく波打つ。
仕事柄、こう言う事はよくある。
が、あの男のあの目は何かを知っている目だ。
何かがおかしい。
何かの歯車が狂っている。
ここは早々に切り上げて、マスターに知らせる必要があるかもしれない。
男は影から出ると出来るだけ遠くへ逃げようと走り出した。
ドンッ―――
「あぁ、すまない。」
その瞬間誰かがぶつかった。
一瞬だったので誰だか分からなかった。
そして広がるジワジワとした痛み。
ポタ――ポタ―――
地面に出来る赤い点のような染み。
男はゆっくりと下を見た。