第48章 神影
「岩中宗次郎の野郎……。」
PM8:24
桜達がすむ町から随分離れた町のキャバクラで男が呟いた。彼は豪龍会若頭兼江田組四代目組長"江田 隆盛(ごうだ たかもり)"。
歳は二十九。
金色の髪をオールバックにし、左額に十文字の傷がある。
肌は色素が少し濃い色をしており、ベージュのスーツと紫のカッターシャツが肌の色を引き立てている。
そして何よりヒョウ柄があしらわれた派手なコートが彼を目立たせた。
「さっさと、酒つがんかィ。」
「あ、はい。」
隣に座る綺麗に着飾れた少し濃い化粧の女がボトルのお酒をグラスに注ぎ水をたす。
――カランッ
かき混ぜると、グラスの中の大きな氷が音を立てた。
「ど…どうぞ。」
「おうッ。」
女が丁寧にグラスを渡すと、江田は荒々しくグラスを取った。
ゴクゴクゴクゴク―――
グラスの中の酒が、どんどん彼の口の中に入り音を立てて喉を通っていく。
まるで、水のように。
「あ――。」
ドンッ。と音を立てて、グラスがテーブルに置かれた。
「わ…わかがし、飲み過ぎでは?」
護衛である付き人が恐る恐る言った。
「あ?」
「ですから…飲み過ぎでは?」
「…なんやと?」
ギラリと彼の目が光った。
「わっ…わかが―――。」
ガシッ―――
「おどれはワシが気持ちよーなっちょる言うんに邪魔するんかッ!?オウッ!?」
ガシャァンッ――――
「ぶへッ―――」
付き人の顔がテーブルにめり込む。
江田が彼の頭を掴みテーブルに叩きつけたのだ。
付き人が鼻血を吹き出している。
「………っ―――」
女達が声に鳴らない悲鳴をあげている。
しかし、誰も悲鳴を上げない。
何故なら、みんな知っているから。
彼の恐ろしさを。
そして、ここが彼の縄張りの一つだと言うことも。
だから、彼の気分を害してはならない。