第34章 敗北
あれから家に帰っても、誠也君は元気がなかった。
あたしが、傷の手当てをしていても一言も喋らない。
無理もない。
彼は今日、総長になって初めて敗北を経験したのだ。
"逃げ"という名の苦痛。
怪我よりも遥かに高い痛みを彼に与えている。
手当てが終わっても、彼はずっとベッドで横になっていた。
乱れた髪で顔を覆い被さっている。
あたしはそんな彼の為に晩御飯を作った。
携帯でレシピを調べて必死で作る手作りハンバーグ。
一人で作るのは初めてだけどなかなか上手く出来たと思う。
お盆にハンパーグの入った皿とサラダとスープとご飯と箸とお茶をのせてラップをかける。
「兄貴どうしたん?」
「ちょっとね。」
ご飯を食べている勇人君に彼の事を聞かれたが曖昧に応えた。
そして、階段を上り部屋に入る。
「ご飯、持ってきたよ。食べれる?」
こちらを見ない彼に尋ねる。
「いらねぇ。」
「ちゃんと食べなきゃダメだよ。」
あたしはそう言うと部屋を出ようとした。
「あのさ…」
ドアに手をかけたとき彼がつぷやいた。