第31章 孤独
亜久里は建物の横から出るとフラフラと歩いていた。
行くあてもない。
別に何処かへ行きたいとも思わない。
ただフラフラと歩いた。
彼には帰る場所がない。
いや、家はある。
だが、帰りたいとは思っていない。
ただ、たまに帰ってシャワーを浴びて着替えるだけの場所。
それ以上でも、それ以下でもない。
しかし、今日は予想外の出来事で服が汚れた。
仕方なく、家に帰る事にした。
馬場団地――
二棟12号室
「…ただいま。」
言う必要のない言葉を吐き出す。
この家には誰もいない。
自分を待つ者も、自分が待つ者もいない。
一日中開ききったカーテンを開けると山積みのゴミ達の間から夕日が見えた。
オレンジ色の光が部屋を照している。
亜久里は自然と畳の部屋に目を向けた。