第28章 下と上
「……はぁ…はぁ…はぁ―――。」
黒髪の少年は走っていた。
幾度となく転びそうになったが、かまわず走り続ける。
「まて、がきゃぁ!!」
遠くの方で岩中興業の連中が叫んでいる。
少年はとっさに建物の間に隠れた。
「……はぁ…はぁ…はぁ…――」
ペールの横に隠れながら外の様子を伺う。
腕の中では小瓶たちが飛び出そうと暴れている。
ドタドタドタ……――――
無数の足音が通り過ぎていく。
奴等だ。
少年はホッとため息をついた。
カンッ――コロコロコロ――
瓶が一匹逃げ出した。
地面を這いずりまわっている。
少年はそれを取ろうと手を伸ばした。
「ガキがこんなん取ったらあかんで?」
何者かの草履を履いた足が瓶を止めた。
少々毛の生えたゴツゴツとした足だ。
少年はゆっくり顔を上げた。
「ひっ―――」
彼は声にならない悲鳴をあげた。
見上げたそこには金髪の傷だらけの顔の男がいたのだ。
誰が見てもわかるスジ者だ。
「おどれが使うんか?にしても量が多いなぁ。」
瓶を拾い上げ振っている。
「……っ……。」
少年は逃げようと立ち上がった。
「ちょい待ち!!」
男が少年の手を掴む。
バラバラと瓶が散らばる。
「今出たらバレるで?ワシについてき?」
男は手を離すと落ちた瓶を拾った。