第28章 下と上
「さよか。ほたら財布だしーや。」
しゃがみ込んで彼等を睨み付ける。
「財布は…――」
女が後ろに何か隠している。
「オバはん、どきーや。」
「あっ―――」
女の髪を引っ張り無理やり退かすと財布があった。
しかも、ブランド物の。
「おどれ等借金まみれゆうのに、エエ財布持っとるやん。」
「やっやめてください。」
加藤はその財布を手に取った。
夫婦がしがみついてくる。
「うっとうしいねん!!離れれや!!」
夫婦を振り払うと加藤は財布を開けた。
「お、ぎょうさん入っとるやん。」
中には諭吉が二十枚近く入っていた。
「きっ昨日久々にパチンコで勝てたんです!!それ持ってかれたらパチンコが――」
泣きながら夫婦が訴えてくる。
「ワシャ、そんなん知らん。借りたかね返すのがスジっちゅーもんやろ。まぁ、これぐらいやったらやるわ。ワシも鬼やないさかい。」
財布から百円玉を取り出すと男に渡した。
「さっ財布は……。」
加藤の顔を見る。
「何ゆうてんねん。足りんさかい財布ごともらってくねん。」
そう言うと、加藤は立ち上がり出口へ向かう。
「あと、元金全然減っとらんで?がんばらな。それと、次居留守つこーたらこんなんじゃ済まんで?」
加藤の眼光が夫婦に突き刺さる。
夫婦は激しく怯えた。
「ほたら、来週またくるわ。さいなら。」
ガラガラガラ―――
硝子の割れた窓が閉まった。