第1章 彼氏
彼の名前は秋本 誠也(あきもと せいや)。
赤く逆立てた髪の毛に目の上の傷が特徴的な人だ。
噂では不良を何十人も川に沈めただとか、一人で暴走族を何チームも病院送りにしただとか、色々噂は絶えない。
現に今県内最強暴走チーム"極使天馬"の総長をやってるぐらいだ。
きっと周りから見たら恐い人なんだと思う。
でもあたしはそうは思わない。
中学の時からの一つ上の先輩だけど、あたしの前では暴力一つ見せたことない。
無愛想で無口な彼だけど、あたしからしたら最高の人だ。
「誠也君。何時もありがと。」
ニコッと笑い見つめるは彼の指。
最高の人だ。
最高の人だけど…
もしあの指に触れる事が出来たなら、
そんな勇気があったなら、
どんなに嬉しいだろうか。
けれど何時も彼は、その指をギュッと閉じている。
拒むように。
だからあたしも触れようとはしない。
触れたのは自分の気持ちを伝えた時に唇が触れたっきり。
だからそれ以上の関係になるわけでもないし、
先輩はなにもいわない。
だからあたしも聞かない。
それが寂しくて仕方なかった。
本当は愛されてるの?