第21章 儚い想い
「桜っ!!」
四階の110号室。
薄暗い個室のベットの上で彼女は寝ていた。
「……拓…二人っきりにしてくれ。」
振り向かずに呟く。
「分かった。」
親友はそう言うとドアを閉めた。
「桜……。」
ゆっくりと彼女に近付く。
ずっと逢いたかった。
夢の中でも彼女に逢えなかった。
彼女は背中を見せるだけで顔を見せてくれなかった。
知らない男と楽しそうに歩いていて、特攻服姿の俺はずっとそれを追いかけていた。
いくら走っても走っても全然縮まらない距離を走って、気付いたらICUにいた。
でも、今逢いたかった人は目の前にいる。
ゆっくりとゆっくりと美しい化粧のなされた彼女の顔に触れる。
誰の為にこんな化粧を。
誰の為にこんな綺麗な髪型を。
そう思うと胸が痛くなる。
きっと、自分の為じゃない。
それでも、目の前にいる彼女が好きでたまらない。
愛しくてたまらない。
ゆっくりと、彼女の顔に顔を近付ける。
規則正しい寝息が聞こえてくる。
「愛してる……。」
そう言って、彼女の唇に触れた。