第21章 儚い想い
彼が撃たれたというのに、また彼とは違う人とキスをしてしまった。
しかも、彼よりもずっと大人の男性。
何故だか拒めなかった。
彼と同じ匂いがしただけなのに。
彼とは違うのに。
変わりゆく景色をただひたすら眺めた。
鍵を開けて逃げてしまおうかと思ったけど、ロックがかけられているため鍵が開かない。
彼の方が一枚も二枚も上手だ。
「………。」
先程から黙って彼は運転している。
あたしはいったいどこに連れていかれるのだろうか。
彼をもし怒らせてしまっているのなら、もうあたしは取り返しがつかない。
不安になりながら黒いヒールを眺めていた。