第20章 犠牲
本当にこの人はそのスジの人なのだろうか。
顔や雰囲気は恐いけど、どこか優しさを感じる。
まるで、あたしの大好きな人の様だ。
あ、また彼と重ねちゃってる。
この人と彼は別者なんだ。
あたしは宗次郎さんの顔をジッと見た。
「どうした?」
宗次郎さんはこちらを見ずに運転しながら言った。
「いっいえ…なにも…。」
あたしは慌てて前を見て俯く。
「………俺が恐いか?」
未だに此方を見ない。
「いいえ、そうじゃなくて……。」
「ヤクザに見えない…か?」
「え?」
あたしは再び彼の顔を見た。
なぜ分かったんだろう。
「…俺はもともと親父の息子じゃない。若い時に孤児院から引き取られたんだ。」
彼は煙草を取り出しくわえると、高そうなジッポーで火を着けた。
「昔は手のつけられないほどの不良でね、色々な悪いことをしてきたよ。サツにも何回も世話になった。ある日…ヤクザに手出してしまってね、殺されそうになったんだ。その時、親父か来てね…助けてくれた。俺の所に来いってね。」
彼は煙を吐き出した。
「だから、俺は親父に感謝してるんだ。今の組にもね。」
「そうなんですか…。」
あたしは、彼の言葉を頷きながら聞いていた。
皆が皆、松下みたいな人じゃないんだと思った。