第20章 犠牲
「岩中様、出来ました。」
「そうか。」
店員の言葉に宗次郎さんは本を閉じた。
「………どう…ですかね。」
ハニカミながら宗次郎さんに尋ねる。
「…………。」
「……やっぱり似合いませんよね…。」
俯いて呟いた。
「………いや。」
彼は立ち上がるとあたしに近付いた。
「綺麗だよ。」
あたしの髪を指で弄びながら言った。
彼が今、どんな顔をしているか見れない。
恥ずかしいから。
「じゃあ、行こうか。」
「あっあの!!」
「何?」
「お金…」
「…もう払ったよ、おいで。」
彼が手を差し出してくる。
「すっすいません、ちゃんとお返しします!!」
あたしは頭を下げた。
「…そんなのいいから、おいで。」
彼があたしの手を握った。
「ありがとうございました。また、お越しくださいませ。」
背中から店員さんの声が聞こえる。
彼はあたしの手を引いたまま、店を出た。