第20章 犠牲
PM1:30
国道○○号線
先程から宗次郎さんとは会話がない。
ただ、かわりゆく景色をジッと見つめていた。
あまり刺激のない優しい洋楽が先程から車内に流れている。
それよりも、少々着物が苦しい。
シートベルトをしてるからなおさらだ。
「………。」
急に座席が下がった。
彼がボタンを押して下げてくれたのだ。
少し苦しさが無くなった。
「…ありがとうございます。」
あたしは、彼の方を向いて軽く会釈した。
「いや、…松下の奴も気が利かないな。着物じゃ苦しいだろう。」
彼はこちらを見ずに応えた。
淡々と運転している。
片手で。
なんだか、それがかっこよくみえる。
これが、大人の男性というものだろうか。
あたしの知らない領域だ。