第19章 初会
今、あたしは知らない所にいる。
大きな鏡がある部屋で赤い着物を着させられ化粧とヘアーメイクをしてもらっている。
なぜ、こんなことになったのか自分でもわからない。
朝、家に誰か来て出たら口に布を当てられて、目が覚めたら岩中興業の事務所にいた。
きっと、彼は今あたしを探している。
でも、どうかあたしを見つけないでください。
でないとあなたが……
「出来ましたよ。」
若い女の人の言葉にあたしは鏡を見た。
綺麗にまとめられた髪。
髪飾りも綺麗。
化粧も綺麗。
着物も。
だけど、あたしの心は綺麗じゃない。
彼や勇人君が心配だ。
「とても綺麗だね。化粧もしてなくてもいいけど、化粧したらもっと綺麗になる。」
松下があたしの肩に手を置きながら言った。
そんなお世辞いらない。
家に返してください。
「さぁ来て、わかがしが待ってる。」
「はい。」
彼に誘われるまま、部屋を出た。