第13章 悪夢
黙って前を歩く彼。
一定の距離を保って俯きながら後ろを歩くあたし。
結局、彼には言わなかった。
だから、きっと彼は今怒ってる、あたしに。
「………あのさ。」
ポツリと彼が呟いた。
「……何?」
あたしは顔を上げる。
「……他に好きな奴でも出来た?」
「…え?」
「…だって―――」
彼は俯いたまま、また口を閉じた。
それでも、足は進んでいく。
周りの景色も変わって行く。
彼は何を勘違いしているのだろうか。
最近気づいたけど、彼は少々嫉妬深い所がある。
独占欲が強いと言った方がいいだろうか。
だけど、それが重たいとは感じた事は一度もない。
でも、今回は…否、今回もあたしに非がある。
本当の事を言えばきっと彼も落ち着くはず。
けど、言えない。
言っちゃダメなんだ。
「浮気なんてしてないよ、もちろん好きなのは誠也君だけ。」
「じゃあ―――」
「振り向かないで!!」
振り向きそうになる彼を言葉で制した。
「今…あたしきっと笑えないから。」
本当は彼に助けてもらいたい。
すごく恐いから。
でも、いつも助けてもらってる彼に迷惑かけたくない。
今回だけは。
涙が溢れそうになってきた。
いつも、あたしは泣いてばかりだ。
笑って。
がんばれあたし。
やればできるよ。