第12章 手
「誠也君!!」
ゴミひとつない大部屋、白い清潔なベッド
彼はその部屋に寝かされていた。
「桜ちゃん、まだ目覚ましてない。」
暗い表情で藤崎先輩が言った。
あたしは、無言で彼に近づいた。
「………っ…。」
大好きな彼の顔がアザだらけでガーゼが貼られている。
頭には包帯が。
どれだけすごい抗争だったのだろうか。
あたしには安易に想像出来なかった。
「藤崎先輩だけですか?」
「あぁ、皆後処理が忙しくてね…。」
先輩はそう言うと目をそらした。
「サツとか色々あるから。」
じっと、飾られた花を見ている。
「そうですか。」
「でもさ、君に来てもった方が喜ぶよ。誠也も……俺も。」
血だらけの特攻服を着た先輩はあたしを見た。
「…やっぱなんでもない。つか、今日祭りだったんだ。全然気づかな―――」
「…先輩。」
「一緒に行けたら…――」
「先輩。」
「誠也も…――」
「先輩!!」
「………。」
「どうして…そんなつらそうな顔…してるの?」
「………。」
先輩はあたしから目をそらした。
それでもあたしは先輩をしっかりと見る。
「ほんとは…何か言いたいことあるんじゃないんですか?」
「……俺、今の関係壊したくねぇ…誠也とも、君とも。」
先輩はうつむいて手をギュッと握った。
パラパラと髪が顔にかかる。
「だから………ごめん―――。」
先輩はあたしを抱き締めた。
「誠也。…少しだけこうさせて。」
そう言って抱き締める先輩の手は優しかった。