第12章 手
「なんで…」
助けてくれるの?
彼に酷いことされたのに…
タクシーの中。
無言で二人は座っていた。
「…あいつはムカつくし、すげぇ嫌いだけどさ…お前が泣く姿見たくねぇんだ。」
「…え?」
「お前は笑顔でおってほしい。…だからさ、幸せでいてほしい。」
「松崎…。」
「つっても、俺はあきらめねぇけどな。」
照れくさそうに頭を掻いた。
「今こんなんしてんのもさ、きっとお前に好かれようと思ってやってんだよ。」
「それでも…嬉しかった。ありがとう、松崎。」
あたしは笑顔で言った。
泣いちゃダメだって思った。
泣いてたら彼が起きた時、彼が困ってしまうから。
「…別に。」
彼は再び頭を掻いた。
ほんのり頬が赤い。
「お客さんつきましたよ。」
タクシーは病院の前で止まった。
「ほら行けよ。」
「え?松崎は?」
「俺が行けるわけねーだろ。ほら行けよ。」
「わかった。本当にありがと。」
「あぁ。運転手さん行って。」
彼がそう言うとタクシーのドアが閉まった。
そして、タクシーは走り出す。
あたしは最後までそれを見ずに病院の中へ急いだ。