第1章 彼氏
「ブレザーありがと。」
嘘。
ほんとはありがたくない。
家の門の前で作り笑顔でそれを彼に渡す。
「……。」
彼は無言で受けとると何も言わずに帰ってしまった。
目頭が熱くなる。
彼の背中を見つめ、逃げるように家に入った。
玄関のドアを閉めると、我慢していたものが一気に溢れだす。
それを誰にも見られないようにと、急いで自室へ入り鍵を閉めた。
そして、枕に顔を当てて、声を殺すように泣いた。
コンコン―――
「桜、この間の新作のCD貸してくんねぇ?」
暫くして、誰かが部屋の戸を叩いた。
棗だ。
あたしは慌てて涙を拭くと、鍵を開けた。
「何で鍵閉めてんだ……って、お前何その顔!?」
「へ?」
すると、棗は驚いたようにあたしをみた。
あたし今どんな顔してるの?
「化粧ぐっちゃぐちゃ……泣いたな。」
あたしの気持ちに応えるように棗は言った。
さすが双子の弟
何でもお見通しらしい。